新しい校長先生って、どんな人?
前回の教育に関する熱い話に引き続き、保護者が子どもとどう向き合うか、校長先生なりの話を伺いました。
福留 修一(ふくとめ しゅういち)
Profile:
鹿児島出身。東京都千代田区、杉並区、世田谷区(松沢小学校、京西小学校)の教員をしたのち、江東区と渋谷区で副校長を務め、弦小の校長として再び世田谷に。
聞き手:PTA副会長 後藤
■保護者の変化と、子どもとの向き合い方について
---保護者が子どもたちとどう接すればよいか、教育について保護者に出来ることはなんでしょうか?
保護者の方は、まずはお子さんのどんなときにも後ろ盾になり、安心できる場所を作ることが必要だと思うし、子どもたちは色々なことを言うと思うんですけど、それを受け止めてあげるのが必要だと思います。
それをどういう風に返してあげるか、配慮が必要だと思います。
子どもが言っていることを全てとして捉えるではなく、情報収集してどう子どもに返していくか、余裕をもって、ワンクッション置いていただきたいと思います。
担任に聞きにくい話であれば、学年主任でも良いし、養護教諭、副校長でも私でも必要に応じて組織的に対応する体制はあります。子どもたちが帰ってきて話をする中で、「ちょっと気になるな」ということについてはダイレクトに判断するのではなくて、情報収集をしていただくと良いと思います。
---その通りだと思うんですけど、それ難しくないですか?
まずは、子どもたちの味方、ということを示すことと、話を聞いてあげてください。
子どもの欲求にはいろいろなレベルがあるんですね。例えば、担任時代の話ですが、私に話をしてくるときに、私に言って満足するパターン、聞いてもらってそれでよいということもあります。具体的に対応してほしいというパターンでも、クラス全体に一般論で話してほしいこともあれば、当事者と詰めて話をして欲しい、ということもあります。
その子のニーズを聞いて、「先生はどうすればよいかな?こういうやりかたもあるし、こんなやり方もあるし」と話していました。
子どもたちが保護者の皆さんに話をした際に、保護者の皆さんとしては「助けるよ」というスタンスはもちながらも、子ども同士の中で誤解もあるかもしれない、自分たちには見えていない状況もあるかもしれない、「(子どもが話していない)いろいろな状況があるかもしれない」ということを念頭に置いていただきたいということです。
---それは子どもの学年によって変わってきます?
そうですね。高学年になっていくとだんだん話さなくなっていく場合があるじゃないですか。逆に低学年はなかなか客観的に見られないので、自分が体験したこと、感じたことをそのまま言葉にする傾向があります。高学年は、客観的に分析できますが、それを親に話したときに自分にとってプラスなのかマイナスなのか考える場合があります。あとは友達のことを気遣うこともあります。いつも全部を話すとは限らない面もあります。
低学年の子は感じたこと、自分の見聞きしたことをそのまま話すことがあります。例えば担任時代にある子どもが、「みんなが○○をやっている」と言ってきたことがありました。「みんなって誰がやっているの?」と詳しく聞いてみると一人とか二人だったとか笑。
子どもたちを疑えということではなくて、ケースバイケースではありますが客観的にワンクッション置けるようなスタンスでいて頂きたいということです。
---共働き家庭が増え、子どもと向き合える時間の少なさに悩む保護者も多いかと思いますが、何かアドバイスはありますか?
僕も共働きだったので、毎日細かい会話までできないというのは、よく分かります。子どもも親が忙しいのは見ていれば分かるじゃないですか。大事なのは、「君のことが一番大事だよ」「君の話を聞きたいと思っているよ」というスタンスを子どもにきちんと伝えることではないでしょうか。別に長い言葉にしなくてもいいんです。忙しくて話ができない時は「今は○○をやってるから手を離せないけど、これが終わったら聞くから、ちょっと待ってね」と言うとか、元気がないときに声をかけるとか。高学年になりますけど「今一番伝えたいことは何?」と聞くとか。毎日じゃなくても、一言でも良いので、短い時間の中でも「君の話が聞きたいんだ」ということを繰り返していくと、「忙しいけど聞きたいんだ」と分かってくれるのではないかなと思います。
---昔と違って私のように父親の参加も増えてきていますが?
そうですね。最近はお父さんたちが学校に来てくださることが増えていますよね。
ご家庭の様子にもよると思うんですけど、「女性・男性」という議論が今の時代に合わないと思うんですよね。
お父さんであれお母さんであれ、どちらかが「どーんと構える」、どちらかが「心配する」といった役割分担はあると思うんですよ。大事な話をするとなったときに、昔だと「サザエさん的」にお父さんに呼びだされる、ということもありましたが、それをお母さんがなさってもかまわないと思いますし。
二人で対応する場合は、二人から攻められると逃げ場がなくなってしまうので、一方が叱ったら一方は避難場所になるというのも必要ですよね。一人で話す場合は、話の流れの中でそれを使い分けていくことになると思います。
昔のように「男性は~、女性は~」、と考えるのではなくて、子どもの指導に必要な要素、役割をうまく分担したり、使い分けたりすることになるのだと思います。
■PTAや保護者へのメッセージ
---さいごに、PTA / 保護者に対してメッセージをお願いします!
副校長をやっていた頃は、PTAの方と接する機会が多く、学校ではできないことをやって頂いたり、貴重な情報を頂いたり、二つの車輪のように協力し合える環境がありまして、とてもありがたかったです。弦巻小でもうまく連携して子どもたちの育成に共に関われていければよいと思います。
本当に申し訳ない、そして有難いと思うのは、お仕事の合間やプライベートの時間の中でお時間を作って頂いて、いることです。今年会長を置かなかったとか、いろいろな発想でPTA活動を工夫・改善していらっしゃるので、無理のない形で協力して頂ければありがたいです。
---先ほど、情報収集を、という話もありましたが、学校にどのように連絡すると良いのでしょうか?
担任から話を聞きたい場合は、連絡帳でその旨を伝えていただき、連絡をする形になります。学校にお電話していただいた場合は、授業時間内は、基本的に担任は教室で指導をしていますから、職員室にいる副校長や職員が対応させていただき、担任に伝えます。ケースによっては、学年主任や専科教諭、養護教諭に話をつなぎます。副校長や私が話を伺うこともあります。
一番良いのは担任に気兼ねなく聞ける環境を作っていただくことですよね。
---担任に直接連絡するにはどうすれば?
担任と話すなら、授業が終わって子どもたちの下校後となります。また、専科先生の時間で職員室にいる場合もあります。まずは、連絡帳やお電話で話がしたい旨を伝えていただき、お仕事とかで連絡がつきにくい時は「○時頃に折り返し連絡が欲しい」というアプローチも良いと思います。
---いろいろとありがとうございました。お忙しいと思いますのでそろそろ終わろうと思いますが。
私からもう一つだけ話しても良いですか?
僕は走るのが苦手だったんです。運動会の徒競走では校庭のトラックにレーンもないコースを10人くらいがまとめて走る形式でした。「よーいドン」でパーッと走って、1位~6位の子は順位をカウントされて本部テントまで行って校長先生から賞状をもらえたんですよ。それに対して、7位以下の子は「はい、応援席に戻ってください」とスルーで。6年間で1回か2回だけ6位をとれたくらいでした。運動会の日が近づくと、「入賞できないと恥ずかしい」と憂鬱な気持ちでいっぱいだったんです。本当に真剣に雨で中止になってもらえないか、とも思っていました。
ある時、そんな様子を見ていた母が冗談交じりに、「『よーいドン!』で回れ右してそのまま走れば(トラックを約一周したところのゴールにすぐ着くから)一番じゃない?」と言ったんですね。つまり「気にしなくていいよ」ということを言いたかったんだと思うのですけれども。それを聞いて、おかしくなって笑った後肩の力が抜けた自分がいました。
一方で私は個人経営の職人の子でしたので、経済的には不安定な状況でした。母は勉強して月給取り(安定した生活を送れるように)にさせたい、と思っていたんでしょうね。だからそのために、勉強しろ、勉強しろ、と時には怒られながら勉強していましたよね。一時期はそんな状況は嫌だと思ったこともありましたけど、生活が苦しい中で学費を工面してくれたことなど、今にしてみれば感謝しています。
全て計算ずくで子どもに関わるのは難しいと思いますけど、子どもをよく見て接することですよね。
子育てはセオリーがないので本当に難しいです。でもそのためにPTAがあって、横のつながりを作って情報共有したり、私の母のように「気にしなくていいわよ」と言ってくれたりする人が近くにいたりとか、そういったコミュニティが出来ると良いですよね。
---貴重なお話が伺えてよかったです。本日はありがとうございました!
インタビューを終えて・・・
とてもジェントルな方だと感じましたが、その一方で、教育に対してとても熱い想いを持っていらっしゃいました。お忙しいのでなるべく早めに切り上げなければ、と思ってインタビューに臨みましたが、想像以上にお話し頂いて最後の最後まで興味深い内容の連続でした。
デジタルに対してもフラットなスタンスでいらっしゃるし、子どもたちにとっても保護者にとっても良い先生に来ていただいたなと感じます。
校長先生、ご対応いただきありがとうございました。
PTA副会長 後藤
5月吉日